はじめに:なぜ用語が「カオス」なのか

2023〜2025年のAI爆発的進化により、学術界・ビジネス・開発者コミュニティがそれぞれ独自の用語を乱立させました。「Supervisor」「Orchestrator」「Agent」など、同じ概念に違う名前がついたり、異なる概念に同じ名前が使われたりしています。

この章では、カオスな用語をミクロからマクロへと整理し、統一的な構造マップを提供します。

AIエージェント・マルチエージェント用語大全
Page 1 - AIエージェント・マルチエージェント用語大全
2023〜2025年の爆発的進化が用語のカオスを生み出した
Page 2 - 急速な発展、概念の重複、そして本資料の目的
この章で学べること
  • 単体エージェントの本質:Agentic Loopとは何か
  • エージェントの自律性スペクトラム(Reactive → Proactive → Autonomous)
  • 内部アーキテクチャ:ReAct、Plan-and-Execute、Reflection
  • 機能拡張モジュール:CoT、RAG、Tool-Use
  • マルチエージェントシステム(MAS)の組織図と役割分担
  • 通信プロトコル:MCP、A2A、ACP、Handoff
  • 主要フレームワーク:LangGraph、CrewAI、AutoGen等

1. 単体エージェントの本質:「自律的な複数ステップの実行」

従来のチャットボットは「入力 → LLM処理 → 出力」の一方通行でした。一方、AIエージェントはAgentic Loop(エージェントループ)という自律的なサイクルを持ちます。

単体エージェントの本質は自律的な複数ステップの実行にある
Page 3 - 従来のチャットボット vs AIエージェント

従来のチャットボット

入力 → LLM処理 → 出力。1回で終わる直線的な処理。追加の行動や自己修正はしない。

AIエージェント

考える(Think) → 行動する(Act:検索・読む) → 観察する(Observe:結果評価) → 出力。目標達成まで繰り返す自律的なサイクル。

定義

AIエージェントとは、「目標」を与えられたとき、自分で考えて行動を選択し、結果を見てまた考えるというサイクルを自律的に繰り返すシステムです。

2. エージェントの自律性(Autonomy)スペクトラム

すべてのエージェントが同じレベルの自律性を持つわけではありません。自律性には低レベルから高レベルまでのグラデーションがあります。

エージェントの自律性スペクトラム
Page 4 - Reactive → Proactive → Autonomous
タイプ 自律性 特徴 具体例
Reactive Agent
(反応型)
低レベル 状況を見て即座に反応する。計画能力はないが軽量で確実 センサー閾値越えでアラート
Proactive Agent
(先取り型)
中レベル 指示を待たず、次を予測して行動する カレンダーを見て明日の資料を準備
Autonomous Agent
(自律型)
高レベル 最初のゴール設定だけで最後まで自律稼働。ハイリスク・ハイリターン AutoGPT
注意

自律性が高いほど良いわけではありません。予測可能性(安全性)と自律性はトレードオフの関係にあります。用途に応じて適切なレベルを選択することが重要です。

3. エージェントの思考を司る「内部アーキテクチャ」

エージェントが「どう考えるか」を決める3つの主要な内部アーキテクチャを比較します。

エージェントの思考を司る内部アーキテクチャ
Page 5 - ReAct、Plan-and-Execute、Reflection
アーキテクチャ 動作パターン 特徴
ReAct
(Reason + Act)
Reason → Act → Observe の反復 現在の主流。考える・行動・観察を細かく繰り返す
Plan-and-Execute
(計画して実行)
Plan → Execute Step 1 → 2 → 3... 最初に全体計画を立ててから順次実行。見落としリスクあり
Reflection
(自己反省ループ)
Generate Draft → Criticize → Revise 自身の出力を自問自答して修正。精度向上と引き換えにコスト増
たとえ話で理解する
  • ReAct = 料理しながら味見を繰り返すシェフ。一歩ずつ確認しながら進む
  • Plan-and-Execute = レシピを全部読んでから一気に作るシェフ。効率的だが途中の変更に弱い
  • Reflection = 作った料理を食べて「もっと塩が必要だ」と自己修正するシェフ。完成度は上がるが時間がかかる

4. LLMをエージェントに進化させる「機能拡張モジュール」

素のLLM(Core LLM)に3つの拡張モジュールを接続することで、エージェントとしての能力が飛躍的に向上します。

LLMをエージェントに進化させる機能拡張モジュール
Page 6 - Chain-of-Thought、Memory/RAG、Tool-Use
モジュール 拡張する能力 具体的な機能
Chain-of-Thought Agent 推論能力の拡張 「ステップバイステップで考えて」と促す手法を組み込み、複雑なタスクの正確性を向上させる
Memory-Augmented /
RAG Agent
記憶の拡張 過去のやり取りをベクトルDBに保存する長期記憶や、検索拡張生成(RAG)によるハルシネーション抑制
Tool-Use Agent 手足の拡張 検索、コード実行、ファイル操作、API呼び出しなど、外部システムを操作する能力

5. 安全な運用の要:Human-in-the-Loop (HITL)

エージェントが重要な判断や不可逆な操作をする前に、人間の承認を求めるセーフティ設計です。

Human-in-the-Loop (HITL)
Page 7 - Quality Assurance Gateとしての人間介在
HITLの仕組み
  • 自律プロセスが進行し、Quality Assurance Gate(品質保証ゲート)に到達
  • Human Node(人間介在ポイント)で承認(Approve)または却下を判断
  • 承認されれば実行継続(Continue Execution)
なぜHITLが必要か

完全自律による暴走リスクを防ぎ、AIの効率性と人間の制御のバランスを取る。決済処理、データベース削除、外部への情報送信など、取り消せない操作の前に必ず人間が確認する仕組みは、安全な設計のベストプラクティスとして強く推奨されています。

6. 単体から群れへ:マルチエージェントシステム(MAS)の台頭

単一のエージェントには限界があります。複数のエージェントが同じ環境に存在し、協力・分業・競争しながら動くシステム全体をMulti-Agent System (MAS)と呼びます。

マルチエージェントシステム(MAS)の台頭
Page 8 - 単体から群れへのパラダイムシフト
MASの3つのポイント
  • Multi-Agent System (MAS):複数のエージェントが同じ環境に存在し、協力・分業・競争しながら動くシステム全体
  • 理論から実用へ:1990年代からの学術分野だが、LLMの進化により理論から強力な実用システムへと開花
  • 専門家のチーム:単一の巨大なAIに任せるのではなく、役割を分担することで、より複雑で大規模な問題を解決する

7. エージェント群の接続構造(トポロジー)

マルチエージェントの「つなぎ方」には、3つの代表的なパターンがあります。

エージェント群の接続構造(トポロジー)
Page 9 - Pipeline、Mesh / Network、Swarm
トポロジー 構造 特徴
Agent Pipeline 直列に連鎖して処理を渡す工場ライン型 シンプルだが途中で失敗すると全体が止まる
Agent Mesh / Network 全ノードが互いに直接通信できる完全メッシュ構造 障害に強く大規模企業システム向け
Agent Swarm 単純なルールを持つ大量のエージェントが分散配置 群れ全体として賢い振る舞いを示す(創発的知性)
たとえ話
  • Pipeline = 工場の組み立てライン。Aが完成品をBに渡し、BがCに渡す
  • Mesh = 全社員が全社員に直接連絡できる組織。調整コストは高いが柔軟
  • Swarm = アリの群れ。個体は単純だが、全体として巣を作り食料を集める

8. マルチエージェントの組織図:実行と指揮の役割分担

マルチエージェントシステムは、人間の組織と同じように階層的な役割分担を持ちます。

マルチエージェントの組織図:実行と指揮の役割分担
Page 10 - Orchestrator → Planner / Router → Executor / Worker
役割 日本語名 機能
Orchestrator Agent 指揮者 全体の進行管理。タスクを分解して他のエージェントに振り分け、結果を統合する
Planner Agent 計画者 「どうやってゴールに到達するか」の手順や依存関係の計画立案に特化
Router Agent 交換機 ユーザー入力や前段の出力を見て、適切な担当エージェントへ処理を振り分ける
Executor / Worker 実行者・手足 指示を受け、ファイル操作、API実行など具体的な作業をこなす実働部隊

9. マルチエージェントの組織図:品質管理と専門性

実行チームに加え、品質を担保するための監督・評価・専門家の役割が組み込まれます。

マルチエージェントの組織図:品質管理と専門性
Page 11 - Supervisor、Specialist、Critic / Evaluator
役割 日本語名 機能
Supervisor Agent 監督者 ワーカーの作業プロセスを監視し、問題があれば介入・修正する(品質チェック特化)
Specialist Agent 専門家 特定のドメインに特化したエージェント(例:法律専門、SQL生成など)
Critic / Evaluator Agent 評価者 他のエージェントの出力を批評・採点し、改善を提案するQA(品質保証)担当
たとえ話:会社の組織

Orchestrator = CEO(全体統括)、Planner = 経営企画部、Router = 受付(適切な部署に案内)、Worker = 現場社員、Supervisor = 部長(品質チェック)、Specialist = 顧問弁護士、Critic = 監査役。このように、人間の組織構造をそのままAIエージェントシステムに適用できます。

10. インフラストラクチャ:通信・協調プロトコル

エージェント同士やエージェントとツールが通信するための標準化されたプロトコルが急速に整備されています。

通信・協調プロトコル
Page 12 - MCP、A2A、ACP、Handoff
プロトコル 提唱 機能概要
MCP Anthropic エージェント(LLM)と外部ツールを繋ぐ接続規格。「何でも繋がるUSBC」のような思想で現在最も普及
A2A Google エージェント同士の直接通信を標準化するプロトコル(MCPが対ツールなのに対し、A2Aは対エージェント)
ACP IBM等 エンタープライズ向けのエージェント間通信の標準化仕様
Handoff 概念 処理の途中で「この先は別のエージェントに任せる」と引き継ぐ(バトンパスする)操作
MCPとA2Aの違い

MCPは「エージェント ↔ ツール」の接続規格(USBCのようなもの)、A2Aは「エージェント ↔ エージェント」の通信規格(電話のようなもの)。用途が異なるため、併用されることが多いです。

11. 開発環境ランドスケープ:主要フレームワークと製品

マルチエージェントシステムを実際に構築するための主要なフレームワークと製品を一覧します。

主要フレームワークと製品
Page 13 - LangGraph、CrewAI、AutoGen、OpenAI Agents SDK等
フレームワーク 特徴 カテゴリ
LangGraph 条件分岐・ループ・並列処理の緻密な制御が可能 グラフ・フロー制御
CrewAI Role(役割)・目標・背景を与えて動かす。直感的で使いやすい 役割・タスク駆動
AutoGen (Microsoft) 複数エージェントが会話形式で協調しタスクを解決 対話型協調
OpenAI Agents SDK Handoff(ハンドオフ)を中心概念とした構築用SDK 引き継ぎ中心
Claude Agent Teams Anthropicが提供する最先端の実験的機能 実験的マルチ機能
Bedrock / Vertex AI 本番運用向けのエンタープライズSaaS環境 マネージド運用

12. 全体像:統合されたエージェント・エコシステム

これまで学んだすべての概念が、一つの統合システムとしてどう組み合わさるかを見ましょう。

統合されたエージェント・エコシステム
Page 14 - User Input → HITL → MCP → Orchestrator → Router → Workers → Vector DB
統合システムの流れ
  1. User Input:ユーザーが目標を入力
  2. HITL:人間介在ポイントで重要な判断を確認
  3. MCP Protocol:標準プロトコルで接続
  4. Orchestrator:全体を統括し、タスクを分解
  5. Router:適切なWorkerに振り分け
  6. Worker / Tool-Use / Specialist:ReActループで実作業を実行
  7. Supervisor:全体を監視・介入
  8. Vector DB (Memory):結果と記憶を永続化
核心メッセージ

散在するバズワードは独立した概念ではない。単体の自律性(Agentic Loop)を基盤に、標準プロトコルで連携し、明確な役割分担によって複雑な課題を解決する「ひとつの統合システム」へと進化しています。

まとめ:Key Takeaways

Key Takeaways
Page 15 - 3つのキーポイント
3つの核心
  • 「チャット」から「自律実行」へのシフト - 単なるテキスト生成から、自ら計画し、ツールを使い、軌道修正を行う自律型システム(Agentic Loop)へとAIの役割が変わった
  • 「個」の限界を突破するマルチエージェント - 単一のLLMへの依存を脱し、専門化された役割(Planner, Supervisor, Specialist)と最適な構造による分業体制が課題解決の鍵となる
  • 急速に進む標準化とエンタープライズ実装 - MCPやA2Aなどのプロトコル標準化と、堅牢なフレームワークの登場により、実験段階を終えて本番環境への実装フェーズへ突入している

付録:AIエージェント用語リファレンス(全6カテゴリ)

本章で登場した用語と、関連する重要用語をカテゴリ別に整理しました。各用語の概要表に加え、詳しい解説を掲載しています。辞書的に活用してください。

1. 単体エージェントの種類

用語 説明
AI Agent自律的にタスクを実行するAIシステムの総称
Autonomous Agent人間の介入なしに自律動作するエージェント
Reactive Agent環境の変化に反応して行動するエージェント
Proactive Agent目標に向けて先回りして行動するエージェント
Software Agentソフトウェア上で動作するエージェントの総称
AI Agent(AIエージェント)

AIが「目標」を与えられたとき、自分で考えて行動を選択し、結果を見てまた考える…というサイクルを繰り返すシステム。単なるチャットボットとの違いは「自律的に複数ステップを実行できる」点です。例えば「競合他社を調査してレポートを書いて」と言ったら、検索→読む→まとめる→書くを自分で順番にやります。

Autonomous Agent(自律エージェント)

人間が途中で指示しなくても、最初のゴール設定だけで最後まで動き続けるエージェント。AutoGPTが流行ったとき話題になった概念です。「完全自律」に近いほど、途中で間違えたときのリスクも高くなります。

Reactive Agent(反応型エージェント)

内部で計画を立てず、「今の状況を見て即座に反応する」だけのシンプルなエージェント。例:センサーの値が閾値を超えたらアラートを送る、チャットで特定のキーワードが来たら定型文を返す。計画能力はないが、軽量で確実です。

Proactive Agent(先取り型エージェント)

指示を待たず、自分から「次にやるべきこと」を予測して行動するエージェント。例:在庫が減ってきたら自動で発注する、カレンダーを見て「明日の会議の資料を今夜中に準備しておく」など。

Software Agent(ソフトウェアエージェント)

AIに限らず、プログラムとして動くエージェント全般の古い呼び方。Webクローラーやボットもこれに含まれます。現在は「AIエージェント」がより一般的な呼称です。

2. マルチエージェント系

用語 説明
Multi-Agent System (MAS)複数エージェントが協調・競合するシステム
Multi-Agent Framework複数エージェントを構築・管理するフレームワーク
Agent Swarm / Swarm Intelligence蜂の群れのように大量エージェントが分散協調
Agent Networkエージェント同士がネットワーク状に接続
Agent Meshメッシュ型トポロジーで相互通信するエージェント群
Agent Pipelineエージェントが直列に連鎖してタスクを処理
Multi-Agent System / MAS(マルチエージェントシステム)

複数のエージェントが同じ環境に存在し、協力・分業・場合によっては競争しながら動くシステム全体を指す学術用語。1990年代から研究されてきた分野で、現在のLLMベースのマルチエージェントブームの理論的な土台になっています。

Multi-Agent Framework(マルチエージェントフレームワーク)

MASを実際に構築するためのライブラリ・ツール群。LangGraph、CrewAI、AutoGenなどが該当します。「フレームワーク」は実装ツールの名前であり、「システム」は動いている全体の仕組みを指します。

Agent Swarm / Swarm Intelligence(エージェントスウォーム)

蟻や蜂のように、単純なルールを持つ大量のエージェントが分散して動き、群れ全体として賢い振る舞いを示す設計。個々のエージェントは単純だが、集合体として複雑な問題を解きます。OpenAIが「Swarm」という実験的フレームワークを公開したことで一般的な言葉になりました。

Agent Network(エージェントネットワーク)

エージェント同士がノードとして繋がり、メッセージやデータを送り合う構造。どのエージェントがどのエージェントと通信できるかを「ネットワーク図」で表現できます。階層型ではなく横並びで繋がっているイメージです。

Agent Mesh(エージェントメッシュ)

Agent Networkの発展形で、すべてのエージェントが互いに通信できる「完全メッシュ」の構造。障害に強く、どのエージェントが落ちても全体が止まりません。大規模な企業システムで使われる概念です。

Agent Pipeline(エージェントパイプライン)

エージェントA→エージェントB→エージェントCと直列に連鎖して処理を渡す設計。工場のライン作業に近いイメージです。例:「翻訳エージェント」→「要約エージェント」→「メール送信エージェント」。シンプルで制御しやすいが、途中で失敗すると止まります。

3. 役割・構造による分類

用語 説明
Orchestrator Agent他のエージェントを指揮・調整する親エージェント
Subagent / Worker Agentオーケストレーターから指示を受けて実行する子エージェント
Planner Agentタスクを計画・分解する専門エージェント
Executor Agent計画を実行に移すエージェント
Critic / Evaluator Agent他エージェントの出力を評価・批評するエージェント
Router Agentタスクを適切なエージェントに振り分けるエージェント
Supervisor Agentサブエージェントを監督・品質管理するエージェント
Specialist Agent特定ドメインに特化したエージェント
Orchestrator Agent(オーケストレーター)

指揮者。他のエージェントに「何をやれ」と指示を出し、結果を受け取って統合する親エージェント。タスクを分解して振り分け、全体の進行を管理します。ClaudeをオーケストレーターにしてサブエージェントにAmazon出品作業を分担させる、といった使い方ができます。

Subagent / Worker Agent(サブエージェント/ワーカー)

オーケストレーターから指示を受けて実際の作業をするエージェント。ファイル操作、API呼び出し、検索、コード実行など具体的なアクションを担う「手足」にあたる存在です。Claude Code Agent Teamsではサブエージェントが並列実行されます。

Planner Agent(プランナー)

「どうやってゴールに到達するか」を計画することに特化したエージェント。タスクを細かいステップに分解し、順序や依存関係を整理して実行計画を作ります。自分では実行しないことが多いです。

Executor Agent(エグゼキューター)

プランナーが作った計画を受け取り、実際に実行するエージェント。計画能力は持たず、「与えられた手順を確実にこなす」ことに集中します。

Critic / Evaluator Agent(クリティック/評価エージェント)

他のエージェントが出した結果を批評・採点・改善提案するエージェント。例:ライティングエージェントが書いた文章をクリティックエージェントがチェックして「ここを直せ」とフィードバックする。品質管理の役割を担います。

Router Agent(ルーター)

ユーザーからの入力や前のエージェントの出力を見て「これはAエージェントが担当すべきか、Bエージェントが担当すべきか」を振り分けるエージェント。交換機・分岐点の役割です。

Supervisor Agent(スーパーバイザー)

オーケストレーターに似ていますが、より「監督・承認・品質チェック」に重点を置きます。サブエージェントが作業中に問題を起こしていないか監視し、必要なら介入・修正する管理者的な存在です。

Specialist Agent(スペシャリスト)

特定のドメインに特化したエージェント。例:「法律専門エージェント」「EC出品最適化エージェント」「SQLクエリ生成エージェント」など。汎用エージェントより精度が高いが、専門外のことは苦手です。

4. フレームワーク・製品名

用語 / 製品 説明
Claude Agent TeamsAnthropicのClaude Codeにおける実験的マルチエージェント機能
LangGraphLangChainによるグラフ構造マルチエージェントフレームワーク
AutoGen (Microsoft)複数AIエージェントが会話しながら協調するフレームワーク
CrewAI役割ベースのマルチエージェントフレームワーク
AgentVerseエージェント間の議論・協調を研究するフレームワーク
OpenAI Agents SDKOpenAIのエージェント構築SDK(Swarm後継)
OpenAI SwarmOpenAIの実験的マルチエージェントフレームワーク(旧称)
Amazon Bedrock AgentsAWSのマネージドエージェントサービス
Vertex AI Agent BuilderGoogleのエージェント構築SaaS
Claude Agent Teams

AnthropicのClaude Codeに実装された実験的な機能で、CLAUDE_CODE_EXPERIMENTAL_AGENT_TEAMS=1という環境変数を設定すると有効になります。1つのClaudeがオーケストレーターとなり、複数のClaudeサブエージェントを並列に起動してタスクを分担させることができます。大規模なコードベースの同時並行処理や、複数の調査タスクを一気にこなすのに有効です。

LangGraph

LangChainが開発したフレームワーク。エージェントの動作をグラフ(ノードとエッジ)で定義します。「条件分岐」「ループ」「並列処理」を細かく制御できるため、複雑なマルチエージェントワークフローに向いています。現在最も実用的なフレームワークの一つです。

AutoGen(Microsoft)

Microsoftが開発したフレームワーク。複数のAIエージェントがチャット形式で会話しながら協調してタスクを解決する設計が特徴。「UserProxy(人間役)」「Assistant(AI役)」などのキャラクターを定義して会話させます。研究用途に強いです。

CrewAI

エージェントに「役割(Role)」「目標(Goal)」「背景(Backstory)」を与えて動かすフレームワーク。チームメンバーのように各エージェントに個性を持たせるのが特徴です。直感的で使いやすく、ビジネス用途のプロトタイプ作成に向いています。

OpenAI Agents SDK(旧Swarm)

OpenAIが提供するエージェント構築SDK。以前は「Swarm」という実験的フレームワークでしたが、正式版として「Agents SDK」になりました。エージェント間のHandoff(引き継ぎ)の概念が中心で、タスクに応じてエージェントを切り替える仕組みが特徴です。

Amazon Bedrock Agents

AWSがクラウドサービスとして提供するマネージドエージェント。インフラ管理不要でAWSのツール群(Lambda、S3、RDSなど)と繋がるエージェントを構築できます。企業のシステムに組み込む本番運用向けです。

Vertex AI Agent Builder

Googleがクラウドサービスとして提供するエージェント構築プラットフォーム。GeminiモデルとGoogleのインフラを活用し、ローコード/GUIでエージェントを組めるのが特徴です。A2Aプロトコルとの連携も想定されています。

5. アーキテクチャパターン

用語 説明
ReAct (Reason + Act)推論と行動を交互に繰り返すエージェントパターン
Plan-and-Execute計画フェーズと実行フェーズを分離するパターン
Reflection / Self-Reflection自分の出力を振り返り改善するループ
Chain-of-Thought Agent思考ステップを明示的に連鎖させるエージェント
Tool-Use Agent外部ツール(API・検索・コード実行等)を使うエージェント
Memory-Augmented Agent長期記憶機能を持つエージェント
RAG Agent検索拡張生成を組み込んだエージェント
Agentic Loopエージェントが繰り返し実行するメインループ
Human-in-the-Loop (HITL)人間の確認・承認を挟むエージェント設計
ReAct(Reason + Act)

「考える→行動する→観察する」を繰り返すパターン。例:「検索しよう(Reason)→検索実行(Act)→結果を見る(Observe)→次に何を調べるか考える(Reason)→…」。現在のほとんどのLLMエージェントはこの構造を使っています。

Plan-and-Execute(計画して実行)

ReActがステップごとに考えるのに対し、最初にまとめて全体計画を立ててから実行するパターン。長いタスクで途中方針がブレにくいメリットがありますが、計画段階で見落としがあると全体が崩れるリスクもあります。

Reflection / Self-Reflection(自己反省ループ)

エージェントが自分の出力を見て「これで合ってるか?」と自問し、問題があれば修正してやり直すパターン。クリティックエージェントを別に立てる場合と、同一エージェントが自己評価する場合があります。出力品質が上がりますが、ループが長くなるとコストも増えます。

Chain-of-Thought Agent(思考連鎖エージェント)

LLMに「ステップバイステップで考えてください」と促す手法(CoT)をエージェントに組み込んだもの。複雑な推論タスクで正確性が上がります。ReActと組み合わせて使われることが多いです。

Tool-Use Agent(ツール使用エージェント)

検索・コード実行・ファイル操作・API呼び出しなど外部ツールを呼び出せるエージェント。現在のLLMエージェントの基本機能です。Claudeで言えば「ツール(関数呼び出し)」機能がこれにあたります。

Memory-Augmented Agent(記憶拡張エージェント)

会話履歴だけでなく長期記憶を持つエージェント。過去のやり取りをベクトルDBに保存し、必要なときに呼び出します。FAISSやruriを使ったRAGシステムはまさにこの仕組みです。

RAG Agent(RAGエージェント)

検索拡張生成(Retrieval-Augmented Generation)を組み込んだエージェント。質問に答える前に社内ドキュメントや外部データを検索し、それをコンテキストとしてLLMに渡します。ハルシネーション(でたらめな回答)を減らせるのが最大のメリットです。

Agentic Loop(エージェントループ)

エージェントが「考える→行動する→結果を見る→また考える」を繰り返すメインの処理サイクルを指す言葉。特定の手法の名前ではなく、エージェントの動作原理そのものを指します。ループの1回を「ターン」と呼ぶことも多いです。

Human-in-the-Loop / HITL(人間介在ループ)

エージェントが重要な判断をする前に人間の承認を求める設計。「本当にこのファイルを削除していいですか?」「この発注を実行してよいですか?」などの確認ステップを挟みます。完全自律と人間制御のバランスを取る考え方で、Anthropicが安全なエージェント設計として強く推奨しています。

6. 通信・協調プロトコル

用語 説明
MCP (Model Context Protocol)Anthropicが提唱するエージェント間通信プロトコル
A2A (Agent-to-Agent)GoogleのエージェントAPI連携プロトコル
ACP (Agent Communication Protocol)IBMらが提唱するエージェント通信仕様
Handoffあるエージェントから別のエージェントへタスクを引き継ぐ操作
MCP(Model Context Protocol)

Anthropicが提唱するオープンスタンダードのプロトコル。エージェント(LLM)と外部ツール・データソースを繋ぐための「接続規格」です。USB-Cのように「この規格に対応していれば何でも繋がる」という思想。Google DriveのMCPサーバーを作ればClaudeからGoogleドキュメントを読める、といった使い方ができます。現在最も普及しています。

A2A(Agent-to-Agent Protocol)

Googleが2025年に発表したエージェント同士が直接通信するためのプロトコル。MCPが「エージェント↔ツール」の接続を担うのに対し、A2Aは「エージェント↔エージェント」の通信を標準化します。異なる会社が作ったエージェント同士を繋ぐことを目指しています。

ACP(Agent Communication Protocol)

IBMなどが提唱する通信仕様。A2Aと目的は似ており、企業向けの堅牢なエージェント間通信の標準化を目指します。まだMCPやA2Aほど普及していませんが、エンタープライズ分野で注目されています。

Handoff(ハンドオフ)

あるエージェントが処理の途中で「この先は別のエージェントに任せる」と引き継ぐ操作。コールセンターで担当者を変えるようなイメージです。OpenAIのAgents SDKで中心的な概念として使われており、「ルーター」と「スペシャリスト」を組み合わせるときに頻繁に使います。

なぜ用語が乱立しているのか

これだけの用語が乱立している理由のひとつは、LLMエージェントの分野が2023〜2025年に爆発的に発展したことで、学術・ビジネス・各フレームワーク開発者がそれぞれ独自の言葉を使い始めたためです。概念として重複しているものも多く、「Supervisorと呼ぶかOrchestratorと呼ぶか」はフレームワーク次第というのが実情です。